闘う巨匠のブレない社会派ぶり

『 Moi, Daniel Blake 』

cinema ダニエルは、やもめ暮らしの木工職人。心臓病でドクターストップがかかり、福祉当局に足を運んだ。「50メートル歩けますか?」「ポケットに物を入れられますか?」。杓子定規の質問に答えるが、結局は障害者とも失業者とも認定されない。これが善良な市民に降りかかる不条理劇の始まり。ある日、彼は職安でシングルマザーのケイティに出会う。職員に厄介者扱いされる彼女にダニエルは助け舟を出す。
 監督は英国のケン・ローチ。本作で『麦の穂をゆらす風』以来、10年ぶり二度目のカンヌ映画祭パルムドールの受賞となった。匿名の情報提供者への取材を重ね磨いた脚本は、ネオリベラリズムの病に侵された社会の成れの果てを映し出す。それは弱者を助けるべき国家が弱者を貶(おとし)める異常な事態。だから弱者のダニエルとケイティは互いに助け合って生きていく。それでも生活の困窮からケイティは売春を考え、ダニエルは命を削り生きるはめになる。
 非の打ち所のない感動作。だが非の打ち所のなさはあまり映画祭の最高賞向きではない。映画にうるさい連中は「きれいにまとまった作品より、今の映画芸術の最先端が見たい」と思ってしまうから。だが80歳を超え、ますます闘う監督のブレない社会派ぶりには、頭が下がる。もう「映画芸術」なんてうるさいことは言わず、ただもう応援させていただきたい。最近も彼は欧州連合離脱への懸念を堂々と表明していた。本作は英・仏・ベルギーの合作だが、英国にとってはこのような欧州合作も今後は撮りにくくなるのかも。しかし本作を手がけた仏の製作会社why not productionsは、去年の『ディーパンの闘い』に続き、またもパルムドール作品を輩出。もはや無双か!?(瑞)