世にもフランシュイヤールなB級ロックンロール

文・向風三郎

 昨年11月の本欄で紹介した 『フランス・シェブラン』を監修したジャン=バチスト・ギヨーのボーン・バッド・レコーズから、またまたクセものの珍盤の復刻。復刻と言ってもオリジナルを見た人はまずいないはず。1994年、ラ・ロシェルの若者が自主制作500枚限定で出した4曲入りシングル盤。アーチスト名:El’Blaszczyk Rock Band Himself(エル・ブラジック・ロック・バンド・ヒムセルフ)。覚えることも発音することもできない名前 「ブラジック」は本名だそう(ポーランド系)。名前もそうだが音楽もありふれたものではない。90年代というデジタル最盛期に録音されたものとは思えないローファイでチープな音で、フランス60年代風ロックンロールを演奏する。そのひとつひとつがギャグ・コント仕上げになっていて、B級SF、スパイ活劇、下ネタなどが、1963年映画『ハジキを持ったおじさんたち』(フランスではカルト映画 “Tonton Flingueurs”)のベルナール・ブリエ流のオヤジ声で進行する。この雰囲気を形容するとすれば “franchouillard” (フランシュイヤール = 頑固でマッチョで大衆的でフランス的な)という言葉がぴったり。例えば、1曲目で60年代的な無線通信機「トーキー・ウォーキー」を「タキー・ウァルキー」と発音するのは、まさにフランシュイヤール。

zizique この秘宝4曲シングルの作者はその後次作もなく消息を断つのだが、10年がかりでギヨーはブラジックを探し当て、熱を込めてこの傑作の復刻を説得する。しかしその間に水害でマスターテープが泥だらけになるなどの不慮の事故があり、ブラジックがギヨーに音源を送ってきたのはさらに数年後の2015年のことだった。だがその中には4曲の他に同時期に録音された10曲の未発表音源が含まれていた。こうして今日(2016年9月23日発売)、日の目を見ることができたのが、エル・ブラジック・ロック・バンド・ヒムセルフの14曲入りアルバム “The Quirky Lost Tapes 1993-95”である。「カーキー(くせもの)ロスト・テープス」とは言い得て妙。さっそくレ・ザンロキュプティーブル誌は「90年代最良のシクスティーズ・ロック」と絶賛した。

 ロックバンド・ヒムセルフと名乗るぐらいだから、一人で全部やっていることは想像できよう。これを今のパソコンソフトや90年代の技術でやっているわけではない。4トラックのテープレコーダ2台を使って、手仕事で多重録音していく。楽器は下手くそ、リズムは不安定、ミニマルなガレージ・ロック。それにブラジックのヴォーカル/語りにコーラス、デュエットヴォーカル、合いの手を入れるのが当時ローティーンだったブラジックの妹と彼女の女友達で、それぞれドニア・ベラ、ソフィア・ベリーナというセクシーなステージネームがついている。スパイヒーローと(ボンド)ガール、マッドサイエンティストと実験モデルのような配役で展開されるショート・コントのロックンロールなのである。

 ただのヘタな素人芸ではなく、手の込んだブリコラージュであることはテープの逆回転部分の確かなテクニックでわかる。実はボルドー高等音楽院で、ミュージック・コンクレートの祖の一人、クリスチャン・エロワに師事して現代音楽を学んだ過去がある。80年代風に言えば「ヘタウマ」であるが、確かな方法論に支えられたものであろう。とは言え、ゲラゲラ笑われるために作られた音楽には変わりない。
 構成は、かの秘宝シングル “With Girls”(1994年発表)の4曲が最初。ガールズとは前述の妹とそのダチのことだが、とてもローティーンとは思えない「女優」ぶりで、付録小冊子に載ったピンナップ写真も秀逸。レトロなスパイ映画から着想を得たトーキー・ウォーキーごっこで遊ぶ男女。手の痛くならない平手打ち機械「タップフェックス」を発明したサイエンティストとその実験モデルの会話。ゲンズブール「ジュ・テーム」のパロディーで官能の6分愛撫デュエット”Quand tu me caresses ” (あああ…)。 

Quand tu me caresses le squelette,
Je me sens toute guillerette.
(骨格を愛撫されたら、わたし有頂天よ)

こんなセリフをローティーン少女に言わせて! 続く第2部は、非常に特殊な病院というコンセプトでアルバム化するつもりで始めたが、結局未発表に終わったプロジェクト “Rock In The Clinic”の8曲で、精神と身体の病気を特殊な療法で治療するロック、ツイスト、ブルースの数々。注射やレントゲンや幻覚剤も飛び出すが、「レコード療法」という、数々のロック歌手の名前(ジョニー・アリディ、チャック・ベリー…)を挙げてそれに対する患者の反応でその症状を判断する歌もあり、さらに「コクテロ・テラピー」という、酒類ごちゃ混ぜの処方を陽気に歌うジャークに至っては、フランシュイヤールの極み。

 20年間埋もれていた仏アンダーグラウンドの原石発掘とありがたがるもよし、フランス流B級お笑い芸を楽しむもよし。これもロックンロールですとも。

CDプレゼント
抽選で3名様に、新アルバム  『El’Blaszczyk Rock Band Himself』 をプレゼントします。ご希望の方は、件名を  「blaszczyk」として、monovni@ovninavi.comまでメールをお送り下さい。