マロヤよ、そのままで:アラン・ペテルス

zizique01 レユニオン島の詩人・音楽家のアラン・ペテルスは1995年の7月12日に43歳で亡くなっている。今年2月の当欄でクリスティーヌ・サレムを紹介した時に、レユニオン島の音楽マロヤが2009年にユネスコ世界文化遺産に登録されたと書いたが、マロヤ復興のパイオニアのひとりだったペテルスはそのことを知らない。波乱に満ちた生涯だったが、死後、評価は年々高まり、1998年に発表された編集盤CD『パラボレール』は2007年に音楽誌 Chorus で仏語圏最高のアルバムに選ばれている。クリスティーヌ・サレム、ダニエル・ワロなど島のマロヤ・アーチストだけでなく、ケント、ベルナール・ラヴィリエなど本土の歌手やマルチニック島の楽団マラヴォワもペテルスの曲を歌い継いでいて、その楽曲はスタンダード化されつつある。しかし残念なことに現在ペテルス自身のCDレコードは本土では非常に入手しづらい状態で、再発を望む声は高い。

アラン・ペテルスは1952年、島の首府サン・ドニで生まれた。父はタクシー運転手だったが、同時に土地の吹奏楽団で打楽器とフルートを担当していて、アランは音楽と共に育った。エレキベースを独習し、ダンスホールバンドのメンバーとして島を巡っているうちに学校に行かなくなり、13歳で本腰でミュージシャンになる。60年代後半から島でもロックが若者たちの心をつかみ、アランのバンドもディープ・パープルやジミ・ヘンドリックスをコピーして人気を博した。甘い顔、波打つ長髪、ブリティッシュロッカーの出で立ち、15歳でアランはグルーピーたちに追い回されるほどの人気だったという。 70年代に入り、彼はプログレッシヴ・ロック/ジャズ・ロック化していく。すなわち長い楽器のインプロヴィゼーションの応酬のうちにトランスする種類の音楽。このトリップ音楽時代に、彼は宗教(ヒンズー教と仏教)、クレオール詩、そして島の奴隷伝来の音楽マロヤ(当時は海外県政府によって禁止されていた)と出会っている。加えてアルコールとドラッグとも。もう島の外から来る音楽のモノマネはやめて、新しいレユニオン島の音楽を、と結成されたバンドがレ・カメレオン。セガとマロヤとロックの融合。そこに本土からやってきたロイ・エルリッシュ(ゴングやジャック・イジュランと共演していたキーボディスト)が加わり、バンドはいよいよサイケデリックなジャズ・ロックとマロヤのトランスを調和的に合体した新レユニオン・ポップを完成させた。エルリッシュとの双頭バンドはカルーゼルという名で、メンバーとその家族たちは電気もないようなヒッピー的コミューンで共同生活をしていた。この時27歳のアランは16歳の少女パトリシアと出会い、恋に落ち、結婚し、娘をさずかった。これがアランが最もこの世界と調和的に生きていた幸福な時期だった。
しかし80年代になって状況は急変し、バンドの金回りが悪くなり、アランが慕っていた父親が死ぬ。すべての悪化の原因はアランのアルコール癖にあり、依存症は手が付けられないほどにアランを蝕んだ。愛妻パトリシアと娘は島を逃れてマルセイユに別居し、音楽的盟友エルリッシュも愛想をつかして離れていった。81年、ひとりになったアランは友人宅の4トラックレコーダーで自作曲を数曲録音するのだが、これが彼の生前発表された唯一の彼名義の録音となった。
そこから15年に及ぶアルコールと彷徨(ほうこう)の日々が始まる。島の人々は、顔も体もアルコールで膨れたアランが物乞いをして道で泥まみれになっている姿を日常的に見ることになる。転んで足や腕を骨折した回数は数えきれず、精神病院にも入れられた。しかし彼はこの状態でも詩と曲を書くことをやめないのだ。そしてその詩と曲を書いた紙のほとんどは今日残っていない。1987年、周囲の人々は金を出し合ってアランに大病院でアルコール中毒治療をさせようと本土に送るのだが、彼は病院に行かず、マルセイユの妻に会いに行っている。この旅路で作った歌が「マロヤよ、そのままで (Rest’ La Maloya)」である。妻子に許しを請い、アルコールの毒を呪い、すべてをやめて帰ることを誓うから、私の歌よ、マロヤよ、そのままで、と歌っている。そしてパリに立ち寄ったアランはエルリッシュと再会・和解し、2人でこの歌のデモを録音している。本当の復帰はその7年後まで待たされ、1994年カルーゼルは再結成され、2回のコンサートでアランは歌った。島は大喝采して放蕩息子の帰還を祝福し、アランは聴衆に新アルバムを約束してショーを終えた。そして翌年7月12日、満月の夜、通りで発作に倒れ、43歳の若さでこの世を去った。

独創的なフォークブルースで評価の高い在仏アメリカ人バンド、モリアーティのローズマリー・スタンレーが中心になって男女6人で編成されたワチ・ワチア・ゾレイ・バンドによる、ペテルスへのトリビュートアルバム
『ザンズ・イン・ランフェ(地獄に堕ちた天使)』が6月24日にリリースされた。「マロヤよ、そのままで」をはじめペテルスの代表曲と2曲の未発表曲が含まれ、40頁のブックレットにはアランの写真やバイオグラフィーが。呪われた詩人アラン・ペテルスを知る手がかりとしてぜひ。

文・向風三郎

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