ダニエル・クロウズの『Mister Wonderful』



 しばらく前にニューヨークタイムズに連載され、今年4月に米国で一冊の本になって発売されたダニエル・クロウズの『Mister Wonderful』が、さっそくフランス語に翻訳されて出版された。

 思春期を脱しつつある若者たちを描くのが得意なクロウズだが、今回の主人公のマーシャルは50代か。独り住まいで、金も未来もなく、長い間恋人もなく、ぶ厚い黒ぶちメガネをかけ、髪は白髪まじり、頭頂部にはげが現れ、運転する車もボロ…ちょっと救いがなく、どこにもいそうな男だ。その彼が,友人の紹介で35歳のナタリーとカフェで待ち合わせをする…、とストーリーを連ねていくと、内容が薄っぺらなコミックスと思われそうだが、血が通ったセリフと、いつものクロウズタッチの、妙にリアリティを感じさせる人物描写で、何度も読み返してみたくなる奥の深さがある。そのセリフだが、マーシャルの自信のなさからくる自問自答が、ナタリーの吹き出しに覆いかぶさり彼女の言っていることが分からなくなったりするのが、いい。
 登場人物たちが、外に表せない葛藤から少々滑稽でぶざまな行動に出ても、クロウズの視点は決してシニカルではない。そんな彼らへの理解と思いやりが、おのずとにじみ出る。こんな視点は、レイモンド・カーヴァーが『ダンスしないか? Why Don’t You Dance?』で主人公の中年男を描写する時の視点と共通するものだ。(真)

Daniel Crowes "Mister Wonderful"