Max Touzi 7区のカフェのオーナー。

 マックスの朝は早い。6時には挽きたてのコーヒー豆の香りが店に漂う。パリ7区、サン・ドミニク通りに店をもって7年。その前は、従業員12人の大きめのブラッスリーで、家族とともに働いていた。16区の自宅から毎日車で通う。
 9時を回ったころ。76歳になるミシュリーヌがやってきた。毎日決まってこの時間にカウンターでコーヒーを飲む彼女は、マックスを息子のようだといい、近くのマルシェで買ってきたリンゴやチーズを彼にあげるのを楽しみにしている。時計の針が10時を指すと、画家のモーリスや花屋のセシルも顔を見せる。一日がゆっくりと動き出した。
 10月のある日。マックスが店を閉じるといい出した。ここのところ、背中がずきずきと痛いのだ。「シアツも試したんだけどいまいち効果がなくてね。ハリのほうが僕には向いてるのかなぁ」と背中を手でさすり、渋い顔をしてなげくマックスは、もうじき45歳になる。飲みものだけを提供している店だが、ひとりでの立ち仕事は、正直、体にこたえる。背中が痛み始めたのは、深夜までの営業が続いた、ある晩のことだった。
 「今日は店を売ってほしいと、3人やってきたよ。中華レストランをここに開きたい中国人の夫妻と、…そうそう不動産屋もいたっけ。7区も変わっていくよね」。鈍い光沢をみせる錫製のカウンターを手でなでながら、店じまいの手を休めてマックスがつぶやいた。
 勤めを終えた男たちがカウンターに集まり始める18時。FMから流れる曲を口ずさみながらマックスは忙しく働いている。「7区の、それこそみんなと顔なじみだよ。なにか特に用事がなくても話しに来てほしいよね」
 11月のよく晴れた日。久々にマックスの店に行くと、セーターを着た彼がいつものようにカウンターでコーヒーをいれていた。「ボジョレ・ヌーヴォーの日にまたおいで。朝までみんなと飲もうよ」マックスのいる7区の小さな物語。彼のカフェが閉まるのは2005年の4月。太陽が好きなマックスは、春の訪れとともにひとり旅に出る。(恵)

●Le Caveau des Oubliettes
 平日には学生で賑わうサンミシェル界隈。そんな喧噪から一歩小道に入ると、石畳が続くガランド通りに突き当たる。この通りに、その名も「終身刑の囚人を閉じ込めた地下牢の陰謀」というバーがある。鋭い刃がきらり光るギロチンは、フランス革命時1793年製の本物だ。仕事が休みの日曜日、地下のカーヴのいつもの席でジャズを聴くのが、マックスの楽しみだ。(恵)

52 rue Galande 5e 01.4634.2309
無休。午前2時まで営業。