苦難を生きた人の心を幸福感に包む、パレスチナ少年の声。

『Le Chanteur de Gaza / 歌声にのった少年』

© La Belle Company

2005年パレスチナ、ガザの街を駈け抜ける子ども達。ボーイッシュな少女ヌールと弟のムハンマドはいつも一緒、大の仲良し姉弟だ。そこにオマールとアマドを加えた4人は、サッカーに興ずるかたわら、ガラクタ楽器を奏でながらバンド活動をしている。ヴォーカルを担当するのは美声の持ち主ムハンマドだ。勝ち気で「夢は必ず実現する」という信念を持ったヌールだったが不意の病に倒れ、あっけなく他界してしまう。

7年後、癒やされない悲しみを胸に成長したムハンマドは、タクシーを運転して学費を稼ぐ大学生になっている。ここで彼の背後に映る光景に目を奪われた。ガザの街並みが瓦礫だらけになっている。2008年以降、ガザはイスラエルとの攻防戦で度重なる空襲にあっている。映画は、そういった事情はいっさい語らない。ただ、映し出された背景に愕然とさせられる。この7年間のムハンマドの人生はいったいどんなものだったのだろう?とおもんぱかるのだが、画面の中の彼は、いたって普通の営みを続ける青年としか見えない。

ヌールと同じ病気で通院していた少女、アマルと再会したムハンマドは、彼女に励まされ歌声を取り戻す。そして亡き姉との誓いを果たすべく飛び立つ。行き先は隣国エジプトの首都カイロ。そこで開かれるアラビア語圏諸国を熱狂させているTV番組 “アラブ・アイドル” の予選に出場するのだ。この番組は “スター誕生” もの、今のフランスで言えば “The Voice” に匹敵する。果たして我らがムハンマドは……?

映画のラストは、もしそれが無くても人の生死には関与しないであろう歌(音楽・アート)の存在意義を見せつけてくれる。ムハンマドの歌声は、苦難の中を生き傷ついた人々の心を暖め、熱狂させ、幸福感で包んでくれる。『パラダイス ・ナウ』などで知られるハニ・アブ・アサド監督の『Le Chanteur de Gaza / 歌声にのった少年』は、実話が題材になっている。(吉)

Mohammed Assaf の歌声はYouTubで視聴可。