シンプルな物語から、内省的な人間ドラマを映像に刻印。

© Pyramide Distribution

『 Faute d’amour 』

 03年、『 父、帰る / Le Retour 』でヴェネチア国際映画祭で金獅子賞と新人監督賞を獲得し、彗星のように世界の映画シーンにデビュー。つづく 『ヴェラの祈り / Le Bannissement』(07)でカンヌ男優賞(妻の不貞に揺らぐ男を演じたコンスタンチン・ラヴロネンコ、前作では12年振りに突然子どもの前に現れ、兄弟を戸惑わせる父親役)、次の『エレナの惑い / Elena』(11)ではカンヌ・ある視点部門・審査員特別賞、そして『 裁かれるは善人のみ / Léviathan 』(14)はカンヌ脚本賞やゴールデングローブ・外国語映画賞を受賞、と順風満帆のキャリアを積んで現代ロシアを代表する監督となったアンドレイ・ズビャギンツェフ。9/20 公開の最新作『Faute d’amour / 愛の欠如』も今年のカンヌで審査員賞を受賞している。今回はモスクワ郊外が舞台だ。この監督の映画では舞台背景がとりわけ重要な役を果たす。ニュータウンといった風情のこの地域の学校の下校風景から映画は始まる。友だちと別れ雑木林や川を抜けて、その向こうにそびえる集合住宅へと一人家路につく少年(12歳、アリョーシャ)の姿を追う。今時のロシアの中産階級の家庭、物質的には裕福そうだが殺伐とした空気が充満している。離婚協議中の両親は一人息子を相手に押しつけようと激しく言い争い、罵り合う。それを泣き声を殺して身を潜めて聞いているアリョーシャ。なんともいたたまれない。母親も父親もそれぞれ新しいパートナーと新生活のスタートを切ろうとしている。息子を独り残して外泊する親に学校から連絡が入る。アリョーシャが何日も登校していない。捜索願いが出される。さすがに動揺する両親。必死の捜索活動が始まるが……。この親たちは何で息子が家出したのかきっと理解できてない。救いようがない。やはりこの監督の演出力は凄い。シンプルな物語から内省的な人間ドラマを映像に刻印してみせる力。(吉)